我々にもかつては狂ったように愛を囁きあった時期があった。

しかし出会って何年も経った今、取る連絡の大半はこの内容である。


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私たちは二人とも昼間は家にいない上に夜も別行動が多く、一緒に過ごす時間では夕食が一番多い。どちらも日本人なので食の好みは合う。リンさんは料理が好きなので、基本的には彼が炊事をして私が洗い物というような分担をしている。大体テキストか電話でメニューを話し合い、私が材料を買って帰るのだがその日の内容はいつもと違っていた。


M Noodle Shopに行こうか」


M Noodle Shopとは、大通りに面した中華料理のお店。カジュアルな店なのだけれどそこそこ美味しくて値段も高くないので、たまに出前を取ったりする。その日はバイトもあって疲れていたのもあり、快諾して二人でお店に向かった。通された奥のスペースにはテーブルが5つほど並んでいる。窓はなく、どこか脂っぽいけれど不思議と落ち着く。気取った店の多いこのエリアで、従業員の自転車がむき出しで置いてあったりするこの無駄に広いスペースがなんとなくホッとするのだ。

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M Noodle Shop
549 Metropolitan Ave, Brooklyn, NY 11211

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しばらくすると腰をくねらせながら若いアジア系の男の子が注文を取りに来る。

Soup Dumplings(小籠包)とチャイニーズブロッコリーの炒めをください。Okay!と言ってにっこり笑顔を作り、メニューを下げてくれる。確か前来た時もこの子が接客してくれたな。


出てくるのを待ちながらポツポツと話をする。2021年ももう終わりだ。なかなか大変な一年だった。私にとってはキャリアを変えるタイミングで大きな決断を迫られたり、リンさんはコロナのせいで仕事がうまくいかなくてすごくイライラしていたりして夏頃の家の雰囲気は最低だった。喧嘩は毎日だったし、それもお互いの人間性の根幹に触れるような根深くて嫌な争いばかりだった。その時に言われたことで今も引っかかっていることが多くある。あの時は実はああ言うことを考えていた、とか、ああ感じたし嫌だった、とお互いにずっと思っていたことを話した。家でこういうことを話すとどちらかが投げ出しがちだけど、今回は落ち着いて話すことができた。リンさんがそうか、そういう風に思ってたとはわからなかった。それは嫌だったね。ごめんね。と謝ってきた。この人の素直なところを評価したい。私もつられて色々悪かった、ごめん。と謝った。

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M Noodle ShopSoup Dumplingは小ぶりだけどジューシーでとっても美味しい。熱々を一口齧ると中から汁が飛び出てくる。皮はちょっと厚くてボリュームもある。日本で食べるやつには及ばなくても、近所にある中華の中ではめちゃくちゃ美味しい。ブロッコリーはシンプルに塩とニンニクで味付けされていて、これもまたホッとする味。サクサクしていて美味しい。なんかこの店は実家を彷彿とさせる。

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二人とも中年なので、これぐらいの量でちょうどいいね、と話して会計をして店を出た。二人ともどうしようもない服で来てしまったが誰も私たちを見ていない。なんか全てがちょうどいいんだ。疲れた夜、遅くまでやっているこのお店が私たちは好きだ。

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外の空気は完全に冬。ニューヨークの冬は長く厳しい。身を固くし、肩を窄めて顔を顰めながら前かがみで歩いてしまう。「なんかこうして歯を食いしばって歩いてると、リンさんと過ごした冬を思い出すよ。」NYに来てからの冬はいつもリンさんと一緒だったもの。リンさんは「いい思い出だったらいいけど」と言って笑った。さあ、家に帰ろう。

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